2000年10月17日

記者発表文

兵庫県尼崎市 山下秀樹 

睦子 

私ども夫婦は、公立那賀病院(和歌山県那賀郡打田町所在)と主治医に対する医療過誤を原因とした損害賠償請求訴訟を、本日10月17日、神戸地方裁判所尼崎支部に提訴いたしました。この裁判を通じて、2000年5月26日、出生直後に逝った私たちの第1子・瑠美奈の死の原因と責任を究明し、あわせて同様の医療事故の再発防止につなげていきたいと考えております。

1.事実経過

原告睦子は、1999(平成11)年10月9日、大阪市内の病院で今回の妊娠(初産)を診断されました。当時、29歳でした。その後、妊娠は順調に経過し、胎児も異常なく成長しました。里帰り出産を希望していたため、原告睦子の実家に近接する公立那賀病院に分娩予約を行い、必要な検診やマタニティクラスを受け、出産に備えていました。

2000(平成12)年5月25日木曜日、妊娠37週6日、破水し、被告病院へ向かい、被告F医師による診察の結果、前期破水と診断され、16時15分同院に入院しました。同夕刻から夜半にかけて陣痛が始まりましたが、分娩にはいたりませんでした。

 翌26日金曜日朝、被告F医師が原告睦子と面談し、陣痛が弱いので経口の陣痛促進剤「プロスタルモンE」(プロスタグランディンE2)を服用するよう指示しました。8時15分ころより、プロスタルモンEを一回一錠一時間ごとに六回、13時15分まで合計6錠を服用。プロスタルモンEを服用中に原告睦子は非常に短い周期で陣痛に襲われていましたが、分娩監視装置はごく短時間装着しただけで、後は1時間に1度ドプラーによる胎児心音の聴取があっただけでした。しかし、13時15分から15時ころまでの間はドプラーによる聴診もなく、放置され、原告秀樹のみが付き添っていました。

 15時ころに陣痛室において、分娩監視装置を装着しようとしたところ、胎児心音がモニターできないほど弱く、高度の徐脈を示していたため、被告F医師が診察にあたったところ胎児仮死と判断され、緊急帝王切開で胎児を娩出することになりました。

15時46分、女児(瑠美奈)娩出。重症仮死のため蘇生措置が施されましたが、その効果が現れないため蘇生が中止され、16時38分に死亡が確認されました。

 安全な出産を疑っていなかったわが子を突然失い、悲嘆にくれる原告秀樹・睦子に対して被告F医師は「原因は分からない」と繰り返すのみでした。

 その後、納得がいきませんでしたので、原告からの要求により、5月29日、5月30日と2回にわたり病院側より説明がありましたが、陣痛促進剤使用中の分娩監視が不適切であったのではないかという原告の疑問に対しても、適切な説明はありませんでした。

2.被告の過失および問題点

 陣痛促進剤(子宮収縮剤・オキシトシン製剤およびプロスタグランディン製剤)は個人によって効果に非常に大きな差があり、そのために過強陣痛、頚管裂傷、子宮破裂、羊水塞栓、弛緩出血、胎児仮死・死亡などの重篤な副作用を起こすことがあります。それらの被害の実態を踏まえて、容量・使用方法が厳格化され、添付文書に記載されています。本件で使用された錠剤の「プロスタルモンE」(プロスタグランディンE2)は点滴によるオキシトシンやプロスタグランディンF2αに比べて調節性に劣るため、1日の最高使用量(6錠)までを一律で投与してはならず、陣痛の誘発・促進を認めたら使用を中止すること、投与中には分娩監視装置による連続モニターが必要とされています。

 また前期破水で羊水の流出が続いている場合にも、胎児仮死の発生する可能性があるために胎児の連続的なモニターが必要とされています。現在、胎児仮死を早期発見し、重症化を予防するためには陣痛と胎児心音の関係を示す分娩監視装置による連続監視がほぼ唯一の方法とされています。陣痛と無関係に5秒程度3回ドプラーで胎児心音を聴取するだけでは、とうてい胎児仮死の兆候をとらえることができません。

 今回の出産において被告病院ならびに被告F医師は陣痛促進中の8時15分から15時までの約7時間にわたって原告睦子を分娩監視なしに放置したに等しく、そのためその間に胎児仮死に陥っていた瑠美奈の容態を把握することを怠り、処置の時期を逸して結果的に死に至らしめたと言わざるを得ません。

3. 私たちの主張

陣痛促進剤の副作用による被害は、1992年に添付文書が改訂された以降も続いています。その多くの例では使用量が守られていなかったり、適切な分娩監視がなされていないなどの使用する病院側の過誤がその原因となっています。私たちの被害もまさに同じような杜撰な医療行為によってひきおこされたと考えています。そのことは、繰り返し警告されてきた陣痛促進剤の副作用について、医師が必要な注意を払っていないことを示しています。

そこで、私たちが求めていることは、まず第1に被告病院、被告医師が今回の医療事故について深く反省し、そのことについて謝罪することです。第2に事故を招いた原因を解明し、再発防止のためにあらゆる手段を尽くすことです。第3には、判決を通じて陣痛促進剤の適切な使用について法的な判断を改めて示して頂き、あらためて適切な医療行為の確立に資することです。

私たちの娘、瑠美奈の命はすでに失われ、決して取り戻すことはできません。たとえ私たちの訴えが認められ、被告に損害賠償が命じられたとしても、二度と瑠美奈を我が手に抱くことはできないのです。しかし、裁判を通じて陣痛促進剤の不適切な使用の実態を明らかにし、それに対する司法判断を仰ぐことで、同じような医療事故の再発を防止することはできると考えています。広く社会の皆様に今後の裁判に関心を持ち、支援して頂けるようお願いいたします。