以下は、私達が病院並びに管理人である打田町長宛てに郵送した質問状及び要望書である。
※固有名詞は必要に応じてイニシャルとしている。
2004年2月27日
那賀郡町村共同国保那賀病院経営事務組合
代表者 打田町長 K・N様
公立那賀病院院長 K・T様
公立那賀病院事務長 S・S様
公立那賀病院の医療過誤で第一子を亡くした元原告
山下 秀樹
山下 睦子
陣痛促進剤による被害を考える会代表
出元 明美
公立那賀病院への公開質問状及び要望書
2000年5月26日に公立那賀病院で元気に生まれるはずの子供が、出生後死亡するという事故がありました。この事故に関し、両親である山下秀樹・睦子は、「原因不明」という病院側の説明に納得できず、2000年10月17日に神戸地方裁判所尼崎支部へ医療過誤を理由とする損害賠償裁判を提起しました。
裁判では私たちと病院側双方が対立し、全面的に争いましたが、審理を尽くした結果、2003年9月30日に公立那賀病院の医療行為での過失が認められ損害賠償の支払いを命じる第一審判決が言い渡されました。この判決に対し、公立那賀病院は控訴せず、同年10月16日に判決が確定しました。
裁判を通じて、病院側は「原因不明」、「陣痛の増強を適切に申告できない分別のない妊婦」、「臍帯下垂及び潜在性臍帯脱出による不慮の事故」等自分たちの医療を省みることなく責任を逃れようとする主張を続けました。その上、損害賠償額を低くするために、自病院が死亡証明書だけでなく出生証明書も発行した亡瑠美奈を「死産」と言い張りました。しかし、病院スタッフの証人尋問では、子宮収縮剤(一般的に言われる「陣痛促進剤」)使用時の監視方法、スタッフの人数等の問題点が浮き彫りになりました。この事故は起こるべくして起こった事故だと判断せざるを得ません。
子宮収縮剤(陣痛促進剤)の副作用による被害は、1992年に添付文書が改訂された以降も続いています。その多くの例では使用量が守られていなかったり、適切な分娩監視がなされていないなどの使用する病院側の過誤がその原因となっています。亡瑠美奈の被害もまさに同じような杜撰な医療行為によってひきおこされました。2001年には多くの被害者の声によって再度の添付文書の改訂が行われましたが、医師がそれを守らなければこれからも同様の被害がなくなることはないでしょう。
裁判において、公立那賀病院の過失が全面的に認められ、それに対して病院側が控訴しなかったということは病院並びに被告医師が判決内容を正当であると受け入れたことを意味します。したがって、公立那賀病院には同様の事故を起こさないよう再発防止を講じる責務があります。また、このような医療過誤を引き起こした責任は、病院の経営者である那賀郡町村共同国保那賀病院経営事務組合(打田町)にもあります。
そこで、私たちは、全国の子宮収縮剤(陣痛促進剤)によって被害を受けた市民の集まりである「陣痛促進剤による被害を考える会」と連名で、安全なお産の実現のために以下の質問及び要望をいたします。また、回答につきましては、2004年3月末日までにいただき、後日話し合いの場を設定していただきたいと存じます。
質問項目
1.今回の裁判判決確定後にどのような被害の再発防止策を実施しているかを明らかにしていただきたい。
上記と関連して、以下の項目にお答えいただきたい。
(1)2000年当事産婦人科病棟の婦長は助産師(当時は助産婦)の資格を持っていなかったと聞き及んでいるが、現在はどうか。
(2)子宮収縮剤「プロスタルモンE錠」使用時のマニュアルの内容はどのようなものであるのか。
裁判中に上記マニュアルの開示を求めたが、「公文書」であるとの理由で拒否された。しかし、診療の基準となるマニュアルの公開を拒む理由はないと考えるので、2000年以降に策定した内容を策定年月日も含めて示していただきたい。
(3)現在の陣痛促進剤の使用及び分娩監視方法はどのように行っているのか。
(4)分娩に携わる産婦人科のスタッフにどのような研修を行っているのか。
2.医療の透明性を高め、病院と患者・患者家族との信頼関係を回復するためにはカルテ(診療記録)の開示が重要であると考えるが、公立那賀病院は本人や遺族からのカルテ開示請求に対して、どのように対応しているのか。
要望項目
1.子宮収縮剤について
(1)子宮収縮剤「プロスタルモンE錠」を使用する際には、分娩監視装置による連続監視を行うこと。
子宮収縮剤「プロスタルモンE錠」の添付文書は1992年に大幅に変更され、警告欄に「本剤は点滴注射剤に比べ調節性に欠けるので、分娩監視装置等を用いて胎児の心音、子宮収縮の状態を十分に監視出来る状態で使用すること」と記載されるようになった。本件では、プロスタルモンE錠を服用しているにも係わらず、分娩監視装置を20分程度しか使用しておらず、「薬の時間になったから」と分娩監視装置をはずされてしまった。また、1日の最大許容量6錠目を服用後、約2時間の間訪室はおろか放置される状態であった。子宮収縮剤使用時の客観的データの必要性を軽んじている非常に認識の甘い状態であり、分娩監視義務違反として判決でも認定されている。
分娩監視装置の普及も伴い、2001年11月には添付文書が次のように改定された。「本剤は点滴注射剤に比べ調節性に欠けるので、分娩監視装置を用いて胎児の心音、子宮収縮の状態を十分に監視出来る状態で使用すること」と記載内容が変更された。この意味は、分娩監視装置を用いた胎児心拍及び子宮収縮状態の監視を意味する。しかも、本件の判決では、「子宮収縮剤を使用するときは、分娩監視装置を連続装着するしか監視方法はない」と指摘されている。よって、分娩監視装置を連続装着し、胎児心拍及び子宮収縮状態を厳重に監視することを明記し、異常の早期発見、異常時の迅速な対応に努めていただきたい。また子宮収縮剤の使用に関して、医師か助産師が常時監視できる条件下のみで使用することとし、私たちの場合のように放置されることのないよう要望する。
(2)マタニティクラス(母親学級)では子宮収縮剤に関する医学的知識を提供すること。
公立那賀病院でのマタニティクラスでは、「自然分娩を大切にしていること」や「陣痛の痛みは人によっては感じ方が違うため、きちんと監視して産婦が安心して出産できるよう心がけていること」等説明されていたが、子宮収縮剤に関する説明は皆無に等しいものであった。医学的適応により使用することがあるのであれば、今後は、マタニティクラスで妊婦及び配偶者に子宮収縮剤について「どんなときに使用するのか」「分娩監視装置の意義ならびに見方」「胎児心拍の正常値」等、医学的な知識の提供を行うこと。
(3)子宮収縮剤を使用するときは十分な情報を提供したうえで産婦・配偶者の同意を得ること。
上記のように妊娠期間中にマタニティクラスで子宮収縮剤についての基本的な情報を提供したうえで、医学的に子宮収縮剤の使用が必要である時点で、危険性を含めたメリット、デメリットについて十分な説明を行い、可能な限り文書で同意を確認した上で子宮収縮剤を使用していただきたい。
2.産婦人科の診療体制について
(1)分娩監視装置の台数を大幅に増やすこと。
2000年当時、分娩監視装置台数は、陣痛室2台、分娩室2台であった。本件では病院スタッフの陳述書から、もう1人が子宮収縮剤使用中で分娩監視装置を使用していたこと、外来患者が使用中であったことにより、分娩監視装置の空きがなかったため、子宮収縮剤を使用中にも係わらず分娩監視装置による監視ができなかったことが明らかになった。子宮収縮剤使用中の産婦より外来患者を優先させていた状況から、分娩監視装置の台数が圧倒的に不足していたと感じられる。それに加え、現在、公立那賀病院は産婦人科の開設から4年が経過し、分娩件数も2000件を超えるという状況及び再発防止策の観点から、具体的には以下のように要望する。
・分娩室、陣痛室のみに分娩監視装置を設置するのではなく、外来用に分娩監視装置を1台準備し、産婦人科外来に設置すること
・産婦が入院している部屋で分娩監視装置を装着できるように台車を使った分娩監視装置を準備し、使用すること
(2)医師及び助産師を増員すること。
事故当時5名の助産師がいたが、新生児室や保健指導の担当者、分娩担当者等と役割分担がされており、4件の分娩件数が重なったにも係わらず、1名の助産師がすべての分娩を担当していた。そのうち、2名もの産婦が子宮収縮剤を使用している状況で、2名の常勤医師は外来診察中であり、1人の助産師が他の分娩予定者の分娩監視も実施しなければならない中で、子宮収縮剤使用中の産婦の厳重な監視は実質上不可能な状態であった。事故後、病院スタッフから「4名の出産が重なることは滅多にないことない。」という釈明がされた。しかし、予約分娩を取り扱っている以上、分娩件数が多数重なることは容易に推察できることであり、病院の管理体制が不備であったことは明白である。事故後及び裁判結果より再発防止策を講じられていれば、助産師は増員されているはずである。もし、現在も増員されていないのであれば、早急に助産師を増員していただき、再発防止に講じていただきたい。また、2003年11月現在、産婦人科医は3名の常勤医師で1日平均70名の患者を診察されていると「病院だより」に記載されていた。2000年当時は2名の常勤医師であったことからすれば医師1名(和歌山医大出身者)の増員がなされているが、現在、3名の医師全員で外来診察に対応しているということであるから、異常事態が起こったとき早急に対処できるように、さらなる医師の増員を要望する。あわせて同一医大出身者のみを配置することは身内のかばい合いがなされることから、他の大学出身者の医師が加わることを要望する。
(3)助産師は「助産師」と記載した名札をつけるようにすること。
助産師の資格を持たない看護師は助産行為及び保健指導を実施できない。名札に名前の記載のみでは助産師であるのかどうか区別がつかないことから、看護師(助産師)○○ ○○のように、助産師であることがわかるよう明記した名札に改善していただきたい。
和歌山県那賀郡の産婦人科開業医院は続々と分娩を取りやめている現状から、那賀郡の基幹病院である公立那賀病院産婦人科での分娩件数が今後も増え続けることが予想される。
公立那賀病院が那賀郡の基幹病院として、この事件を教訓に、町民の皆様から厚く信頼される良い病院へと改善されることを亡瑠美奈とともに心から願い、要望いたします。
以上